「牛骨ラーメンはありません。」香味徳由良ロングインタビュー
鳥取の香味徳と言えば、牛骨ラーメンというイメージがあります。しかし由良駅(コナン駅)の駅前にある香味徳由良には「牛骨ラーメンはありません」「テレビに出た香味徳とは違います。」との張り紙が。どういうことでしょうか?
香味徳由良について、歴史、味、そして張り紙のことなど、ロングインタビューをさせていただきました。この記事を見れば香味徳由良の全てがわかる。
1.香味徳由良のお店について
鳥取県北栄町のJR由良駅(コナン駅)前にあるラーメン店「香味徳由良」の紙徳賢治さんにお話を伺いました。
Q:お店の経歴について教えてください。
A:香味徳は鳥取県東伯郡琴浦町の赤碕というところに本家があります。そこから私の父がのれん分けして鳥取県東伯郡北栄町(当時は大栄町)の集落内に食堂と仕出しの香味徳を構えました。
やがて昭和59年ころ、現在の場所であるJR由良駅前に移転し、その店舗で今も営業しています。
平成24年4月から私が店に入り、平成27年に父が店を引退し、同じ年に店に入った原田店長と私との二人体制で現在に至ります。引退後の父は、民生委員をやりながら、グランドゴルフの日々を満喫しております。
Q:香味徳は何軒あるのですか?
A:鳥取県内には3軒あります。赤碕の香味徳(本家)、由良の香味徳(分家)、倉吉の香味徳(分家)です。
赤碕の香味徳からは、東京(鳥取マガジン香味徳銀座記事)とハワイのホノルルにも香味徳をオープンさせているそうです。
Q:カップめんが出てますよね?
A:あれは東京の香味徳が監修しているようです。由良の香味徳は一切関与していません。
Q:香味徳のラーメンは店ごとに味が違うということですが?
A:似てはいますが、店ごとに違いがあります。鳥取県内の3店はチェーン店ではなく、それぞれ独立した店です。
店ごとに仕入や仕込みをしますし、店ごとに工夫を重ねていますので、当然ながらラーメンが違ってくることになります。食べ比べて違いを確かめて、いちばん好みに合う香味徳を探してみるのも面白いと思います。
2.由良の香味徳ラーメンについて
Q:由良の香味徳のラーメンについて聞いていきます。まずは麺はどうですか?
A:当店では、創業時から、米子市内にある岡本屋商店という製麺所の麺を使っています。赤碕と倉吉の香味徳は違う製麺所の麺を使っていると聞いています。
当店では、大きな釜に麺を泳がせるように茹でて、砂時計(1分計)で茹で時間をはかり、平ザルで麺を揚げています。
Q:ラーメンのスープに使うダシはどうですか?
A:香味徳に共通するのは牛の骨でダシをとることですが、当店では、コラーゲン組織をゼラチンに変えるイメージでダシをとっています。そのため、大腿骨や肋骨は使わず、関節組織を完全に含む下腿骨などを使い、骨から外れた筋や骨髄などを電動攪拌機で砕いて溶かすように煮込んでいきます。
冷やせばプルプルに固まるくらい濃度の高い牛の骨のダシを使っているのが、由良の香味徳の特徴といえます。
Q:かなり濃厚なダシなのですか?
A:いいえ、むしろさっぱりした感じのダシです。良く言えば上品、悪く言えば味が薄いです。うま味もほとんどありません。
しかし、このダシを使うことで、スープにふくらみ・厚みが出ます。濃厚さを演出するのはダシより牛脂です。
Q:牛脂はどうやってできるのですか?
A:牛の骨を煮込むと牛脂は大量に浮いてきます。牛脂は骨によって品質にバラつきが多いので、当店では、それを2回澄ませた上澄みだけを使います。
その上澄みの牛脂を熱々に熱して、ラーメンの上からジュワーッとかけまわすのも、由良の香味徳だけの特徴です。
Q:スープの味付けはどうですか?
A:香味徳に共通するのは淡口醤油で作った醤油ダレでスープの味付けをすることです。赤碕で生産されるカネマスの淡口醤油を使っています。
醤油ダレの正体は豚肉を使ったチャーシューの煮汁なのですが、豚肉の味が特に強いのが、由良の香味徳の特徴です。
Q:豚肉の味が強いのはどうしてですか?
A:使う豚肉の量が多いからです。私が店に入って以降、チャーシューの仕込みに工夫を加えていきました。
具体的には、煮る際にショウガを使ったり、煮汁の調味料の配合の微調整を繰り返したり、豚肉に下味をつけたりといった感じです。すると、チャーシューメンの注文が増え、チャーシューを仕込む量も増え続けていきました。
こうして自然に豚肉の味が強い醤油ダレになり、それにともなってラーメンのスープも変わっていったという経緯があります。ちなみに、チャーシューに使う豚肉の部位も香味徳ごとに違います。
Q:チャーシュー以外の具材はどうですか?
A:香味徳に共通する具材は、もやし、ねぎ、メンマ、ゆでたまごです。これらも香味徳ごとに微妙に違いがありますので、ぜひ食べ比べてみてください。
Q:卓上の調味料について教えてください。
A:由良の香味徳では、コショウ、醤油ダレ、モンゴル岩塩、とうがらしを揃えています。
コショウは、単体のコショウではなく、複数のスパイス類をブレンドしたものです。醤油ダレは、先ほど説明したスープの味付けに使っている醤油ダレです。
モンゴル岩塩は、塩です。まるみがあっておいしい塩です。とうがらしは、じんわりと辛くて香りのいい青唐辛子です。
どれも、少しずつ溶かさずにラーメンや具材にかけて使うのがおすすめです。
3.香味徳のメニューについて
Q:メニューの話に移りますが、かなり特徴的なメニュー構成ですよね?
A:由良の香味徳では、スープは1種類、上に乗せる具材の違いで3種類、さらにそれぞれ麺の量が選べるという構成です。
玉数はお客様の要望で増えていったようです。ダブル(2玉)やトリプル(3玉)は由良の香味徳が元祖だと思います。
Q:クアッド(4玉)は珍しいですが頼む人がいるんですか?
A:一人で食べる方もありますし、女子高生とか、小さいお子さんがある家族連れのお客様が取り分けて食べられる場合もあります。
シングル、ダブル、トリプルとくればクアドラプルなので、私の友人のアイデアで短くしてクアッドと命名されました。
たまにフォースだと言う方がありますが、それだとファースト、セカンド、サードの流れなのでおかしいと思います。
Q:学生ラーメンは学割とは違うんですよね?
A:メニューに書いてあるとおり学割ではありませんし誰でも頼めます。名前が学生ラーメンというだけです。学生さんが注文したら自動的に学生ラーメンになるというのもデマです。
具材が少ないので食欲があまりないときに食べやすいラーメンだと思います。チャーシューご飯との組み合わせで注文されるお客様も多いです。
Q:チャーシューご飯というのは?
A:チャーシューのほか、チャーシューの切れ端と、チャーシューと一緒に似たショウガとを刻んだものをごはんに載せています。
チャーシューの仕込み量が増えたのとショウガを使うようになって、必然的に発生した商品といえます。醤油ダレの材料がそのままご飯に乗るのでラーメンとの相性もいいです。早い時間に売り切れます。
4.貼り紙について
Q:店の入り口の貼り紙について教えてください。「テレビに出た香味徳とは違います。」とありますが?
A:あの貼り紙は、平成27年のGWの直前に、赤碕の香味徳がテレビに出たことがあった際に貼りました。
本家の赤碕の香味徳と同じラーメンは、由良の香味徳ではお出しできないので、それを伝えるための貼り紙です。
Q:「牛骨ラーメンはありません。」とありますが?
A:由良の香味徳のラーメンは、ひとことで言うと淡口醤油と豚と牛を使った醤油ラーメンです。牛骨ラーメンを期待するお客様は、申し訳ありませんが別のお店に行ってください、という思いで記載しています。
Q:牛の骨を使っていれば牛骨ラーメンじゃないんですか?
A:牛の骨を使っている=牛骨ラーメンという図式には問題があります。
牛骨ラーメンを期待するお客様は、当たり前ですが、スープは牛の骨のダシの味がすると信じておられるはずです。
しかし由良の香味徳は豚肉の味がかなり強く出ており、それを牛の骨のダシの味だと勘違いされてはお客様に恥をかかせるばかりです。
例えば、豚と牛の合挽き肉のハンバーグなのに、純然たる牛のハンバーグかのように売って、そう信じさせることは、断じていけないと思うわけです。
Q:由良の香味徳も牛骨ラーメンとして売っていた時期があるようですが?
A:私が店に入る前後の時期がそうでした。パンフレットに掲載されたりのぼりを立てたりしていた時期があります。
Q:かつての由良の香味徳のラーメンはどういったものでしたか?
A:私が小さいころから見てきた香味徳のラーメンは、うま味調味料をしっかり使い、牛脂をたっぷり浮かべ、脂のくどさに対抗してコショウを効かせるといった感じのラーメンです。
牛の骨という素材は、うま味が少なく、大量に牛脂が出るので、そういったラーメンができあがるのも自然な流れだと思いますし、そういったラーメンがいわゆる昔からの「牛骨ラーメン」ではないかと思います。
Q:話を貼り紙に戻して、「満席時は席の用意ができるまで店外でお待ちください」とありますが?
A:店内で待たれると先のお客様が急かされて気になって落ち着いて食事できません。そのため基本的に店外で、しかもなるべく車で待ってもらうようにしています。
先のお客様が店を出られた後も、食器の片づけなどお席の用意をする必要がありますので、すぐには座れません。用意ができればお呼びしますので、どうかそれまで外でお待ちください。
Q:「大人数(6人以上)のお客様にはおすすめしません」とありますが?
A:テーブル席が4人掛けで補助いすを出してなんとか5人座れるのと、一度に作ることができるのが6杯程度だからです。
2人だけでなんとか回している小さな店ですので、一組大勢のお客様には行き届いたサービスをできる自信がありません。そのため、大勢のお客様にはほかのお店をおすすめするようにしています。
Q:「お急ぎのお客様にはおすすめしません」とありますが?
A:繰り返しになりますが、2人だけで回している小さい店です。そのため混雑してくればどうしても時間がかかります。お急ぎの方を拘束するつもりはまったくありませんので、待ち時間が気になる方には、ほかのお店をおすすめするようにしています。
5.最後に
Q:最後に何かお店からのお願いはありますか?
A:当店のお客様のおおよそ8割は常連さんであり、そのお客様のご厚意に支えられて何とか営業できているのが由良の香味徳です。
テレビや雑誌の取材を全面的に断っているのも、一見のお客が押し寄せて常連さんが入れなくなっては困るという思いからです。
一見さんでも、由良の香味徳のラーメンをどうしても食べてみたいという方は歓迎します。しかし、「牛骨ラーメン」をお求めの方については、がっかりさせたくありませんので、どうか他のお店に行かれるよう、お願いいたします。
香味徳由良 データ
住所:鳥取県東伯郡北栄町由良宿801
時間:11:00~14:00、17:00~20:00
休み:月曜日
最新情報はFacebookへ:香味徳由良Facebook
地図はこちら↓
いかがだったでしょうか?誠実な香味徳由良の姿勢。不器用かもしれませんが、共感できます。おいしいラーメンをお客さんに届けたい思いが伝わってきました。思いに共感できる方は是非お店に足を運んでみてください。
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